スマートフォンは現代生活に欠かせないツールになりました。
大人にとっても便利で手放せない存在ですが、子どもにとってはどうでしょうか?
「子どもの脳の発達に悪影響を及ぼすのでは?」という懸念は、多くの親が一度は考えたことがあるテーマだと思います。
こういった経験はしたことにないですか?
子供もがスマホで動画を見ているときに、声をかけたら全く無反応だった。
取り上げると大泣きをする。
通勤電車や道を歩いていると大人もスマホに目が釘付け。
まるで、スマホに脳を乗っ取られているような姿が異様に感じます。
先日、YouTubeのPIVOTチャンネルで公開された「スマホに壊される脳/スマホ育児は悪/脳科学者が警鐘」という動画を視聴しました。
この動画では、東北大学応用認知神経科学センターの榊浩平准教授が、子どもとスマホの関係について科学的な研究成果をもとに警鐘を鳴らしていました。
この記事では、その動画の要点を整理しつつ、国内外の脳科学研究や実際の家庭での工夫も交えて、「子どもの脳の発達におけるスマホの影響」を考えていきます。 さらに、親として今日からできる実践的な対策も紹介します。
目次
PIVOT動画の要点|榊浩平准教授が語るスマホのリスク
榊准教授が紹介していたのは、東北大学で行われた大規模調査です。小中学生約7万人を対象に、スマホの利用状況と学力、脳の発達を追跡した研究によると、次のような傾向が見られました。
- スマホの使用時間が長いほど学力が低下する
- 長時間利用する子ほど、脳の前頭前野の発達が遅れる可能性
- 学習アプリであっても、使いすぎは学力向上につながらない
特に前頭前野は「集中力・判断力・感情のコントロール」を担う部位。子どもにとって最も成長が重要な時期に、過度な刺激が与えられることで、本来の発達が阻害されるのではないかと懸念されています。
脳科学的に見たスマホの影響
スマホの影響は単に「時間を奪う」だけではありません。脳科学の視点から見ると、いくつかのリスクが浮かび上がります。
- 前頭前野の抑制:集中力や計画性を司る機能が弱まりやすい
- 海馬への影響:短期記憶や学習の定着が妨げられる可能性
- 扁桃体の過敏化:強い刺激に慣れ、感情が不安定になりやすい
- 報酬系の過剰反応:SNSやゲームで「もっと見たい」と中毒的な行動が強化される
これらは大人にも当てはまりますが、発達途上の子どもでは影響がより大きく出やすいと言われています。
なぜ学力が下がるのか?「ながら利用」と集中力の関係
スマホが学力に悪影響を与えるのは、ただ勉強時間を奪うからではありません。実は「集中力の質」が落ちることが問題です。
通知やSNS、動画の自動再生など、スマホは常に新しい刺激を与えます。
その結果、「一つのことにじっくり取り組む力」よりも「短時間で次々と切り替える力」が優位になってしまいます。
これが積み重なると、読書や計算のような地道な学習に必要な忍耐力が育ちにくくなるのです。
精神面・生活習慣への悪循環
スクリーンタイムの増加は、学力だけでなく心の健康にも影響します。近年の研究では、スマホ利用が1日4時間を超える子どもに、不安、抑うつ、注意欠如といった症状が増える傾向があると報告されています。
さらにスマホは生活習慣も乱します。
- 夜遅くまで使用 → 睡眠不足で翌日の集中力が低下
- 運動不足 → ストレス発散ができず気分が落ち込む
- 食事中の利用 → 家族の会話が減り、社会性が育ちにくい
年齢別にみるスマホの影響
- 幼児期(〜6歳):言語発達や運動能力への影響が懸念される。特に「画面の見すぎ」は視覚・聴覚の偏りを生みやすい。
- 小学生期:基礎学力の定着期。スマホ使用が増えると、読書量や宿題時間が減りやすい。
- 中高生期:SNS依存や夜更かしが増え、メンタルヘルスへの影響が顕著になる。
海外研究・国際的な指針
世界保健機関(WHO)は、5歳以下の子どもについて「1日のスクリーンタイムは1時間未満」を推奨。
アメリカ小児科学会(AAP)も「2〜5歳は1日1時間まで」「小学生以上は家族でルールを決めるべき」としています。
一方で、フィンランドや韓国など一部の国では、学校教育の中でデジタル機器を活用しつつ、休み時間に外遊びを必須化するなど、バランスを重視した取り組みが進められています。
スマホのポジティブな活用事例
スマホが全て悪ではありません。学習アプリや動画教材は、子どもの興味を引き出し、家庭学習をサポートしてくれる側面もあります。特に以下のような活用方法は有効です。
- 英語学習アプリで発音を繰り返し練習
- 算数のゲームで楽しく計算力を強化
- 家族で写真や動画を編集して作品を作る
家庭でできる具体的な工夫
- 時間ルールを設定:「平日は1時間まで」「夜9時以降は禁止」など、明確にする
- 使う場所を限定:リビングでのみ使用し、寝室や食卓には持ち込まない
- 親も一緒にルールを守る:「親は自由に使う」のでは説得力がない
- 代替活動を用意:外遊び、読書、ボードゲームなどアナログな楽しみを増やす
親も一緒にスマホと向き合う工夫
子どもにスマホの使い方を指導するときに忘れてはいけないのが、親自身のスマホ習慣です。榊浩平氏の研究やPIVOT動画でも触れられていましたが、親がスマホを長時間利用していると、子どもは自然とそれを真似してしまいます。つまり「言葉よりも行動」が影響力を持つのです。
スマホを「置く場所」を決める
リビングや寝室にいつもスマホを持ち込んでいると、無意識に手に取ってしまいます。家庭内に「スマホ置き場」を決めて充電しておくと、それだけで使用頻度が下がります。食卓やベッドには持ち込まないルールを、親子で一緒に作るのがおすすめです。
スクリーンタイムを“見える化”する
iPhoneの「スクリーンタイム」やAndroidの「デジタルウェルビーイング」を活用して、自分の利用時間を可視化しましょう。「今日は何時間使ったか」を意識するだけで、不要な利用を減らすきっかけになります。子どもと一緒に「今日は◯時間に抑えられた」と共有するのも効果的です。
“ちょっとした暇つぶし”を置き換える
スマホを無意識に触ってしまう理由の多くは「手持ち無沙汰」です。その時間を他の行動に置き換える工夫が役立ちます。例えば、リビングに本や雑誌を置いておく、クロスワードや数独などのパズルを手元に用意する、ちょっとした家事やストレッチで気分転換する、などです。
親子で「オフライン時間」を設ける
「夜8時以降は親子でスマホをリビングに置く」「休日の午前中は外遊びや散歩をする」といったオフライン時間を設けると、子どもも自然とスマホから離れられます。親が楽しそうに取り組んでいると、子どもも「スマホ以外の時間も充実している」と学んでくれます。
デジタル断食を習慣にする
完全に禁止するのは難しいですが、「休日の半日だけスマホを見ない」「旅行中は必要最低限にする」といったデジタル断食を習慣にするのもおすすめです。無理のない範囲で始めれば、家族の会話やリアルな体験の価値を再発見できます。
こうした工夫を取り入れることで、親自身のスマホ利用も健全になり、子どもへの説得力も増します。何より、親子で一緒に取り組むことで「スマホとうまく付き合う姿勢」を自然に伝えられるのです。
まとめ|スマホ時代に必要なのは「禁止」ではなく「バランス」
スマホは便利で楽しい道具ですが、子どもの脳にとっては刺激が強すぎる場合があります。長時間の利用は学力・心の健康・生活習慣に影響を及ぼすリスクがありますが、適切にコントロールすれば学びを広げる可能性もあります。
大切なのは「完全に禁止する」ことではなく、バランスを取って使うことです。親子でルールを話し合い、スマホとリアルな体験の両方を大切にすることが、これからの時代の子育てに求められています。
参考文献・関連研究
- Sakaki, K., et al. (2021). Longitudinal associations between smartphone use and academic performance in Japanese adolescents. 東北大学加齢医学研究所調査.
- Kawashima, R., et al. (2015). Impact of daily screen time on children’s cognitive development. 東北大学研究グループ.
- World Health Organization (2019). Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age.
- American Academy of Pediatrics (2016). Media and Young Minds.
- Twenge, J. M. (2017). iGen: Why Today’s Super-Connected Kids Are Growing Up Less Rebellious, More Tolerant, Less Happy.